病態別の経静脈栄養の考え方

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病態別の経静脈栄養の考え方

栄養はあればあるぶんだけ、いいと思うかもしれませんが、患者の病態によっては栄養を減らさないと逆に害になってしまうケースもあります。今回は病態別経静脈栄養の基本を見ていきたいと思います。

 

 

経静脈栄養の考え方の基本

経静脈栄養の考え方は割とシンプルで以下の手順で考えるとわかりやすいです。

 

  1. 患者が健康な場合を想定して輸液を組む
  2. 1で考えた組成から、病態ごとにタンパク質を適宜増減する

 

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患者が健康な場合を想定して輸液を組む

まず患者が健康だった場合を想定して輸液を組みます。考えるうえで重要なのが、栄養量と水分量とアミノ酸量です。

 

栄養量

栄養量を考えるうえではハリス-ベネディクトの式(Harris-Benedict Equation、HBE)があります。

 

  • 男性の基礎代謝:66+ 13.7×体重 + 5.0×身長 ? 6.8×年齢
  • 女性の基礎代謝:665.1 + 9.6×体重 + 1.7×身長- 7.0×年齢

 

ハリス-ベネディクトの式(Harris-Benedict Equation、HBE)によって、基礎エネルギー消費量が求められます。この基礎エネルギー消費量に活動係数やストレス係数をかけることで必要エネルギー量を計算できます。

 

活動係数は、どれくらい活動しているかを表し、

 

  • 1.1(寝たきり)
  • 1.2(ベッド上安静)
  • 1.3(ベッド以外での活動あり)
  • 1.5(やや低い生活活動量)

 

などがあります。

 

ストレス係数は患者がどのような状況におかれているのかによって変わります。例えば

 

  • 手術:1.1(軽度)、1.2(中等度)、1.8(高度)
  • 外傷:1.35(骨折)、1.6(頭部損傷でステロイド使用) 感染症:1.2(軽度)、1.5(中程度)
  • 熱傷:1.5(体表面積の40%)、1.95(体表面積の100%)
  • がん:1.1〜1.3

 

などがあります。

 

このハリス-ベネディクトの式(Harris-Benedict Equation、HBE)などを使って栄養量を計算してもいいのですが、そのあとに使う活動係数やストレス係数が主観によって変わってきます。

 

例えばある患者さんのストレス係数を薬剤師Aさんではストレス係数が軽度と思っているのが、薬剤師Bさんでは中等度と思っていたりなど誤差が生じます。

 

そのため細かく計算せずに、ざっくりと計算して実際に投与、患者をモニタリングして修正するという流れの方が重要です。そのため簡易的な

 

  • 体重kg×30kcal/日

 

の方が個人的には役立ちます。何より次の水分量と同じなので覚えやすいです。

 

水分量

水分量も基本的には栄養量と同じ分だけ入れればいいです。(体重kg×30mL/日)

 

アミノ酸量

アミノ酸量は基本的には体重kgをgに置き換えればだいたいの数字となります。

 

ただ高齢者は一般的な成人と比べて効率的にタンパク質を生成できなかったりするので、補正したりする必要があります。またリハビリ患者も、より多くのアミノ酸を投与することが必要です。

 

1で考えた組成から、病態ごとにタンパク質を適宜増減する

まずはじめに病態別栄養の代表例を先に見ます。

 

 

  • 慢性腎不全(透析前);栄養量→、タンパク↓、水分→、電解質↓(特にNa↓、K↓)
  • 慢性腎不全(透析後);栄養量→、タンパク↑、水分↓、電解質↓(特にNa↓、K↓)
  • 肝硬変;栄養量→、タンパク↑、水分→、電解質↓(Na↓)
  • 心不全;栄養量→、タンパク→、水分↓、電解質↓(Na↓)
  • COPD;栄養量↑、タンパク↑、水分→、電解質→
  • がん;栄養量→、タンパク→、水分→、電解質→
  • 手術前;栄養量→、タンパク→、水分→、電解質→
  • 手術後;栄養量→、タンパク↑or→、水分↑or↓、電解質↑or↓

 

病態別栄養で特に注意したいのがタンパクです。透析前の患者ではタンパクを減らし、それ以外は増やすか横ばいかと覚えておくと覚えやすいです。

 

栄養管理におけるモニタリング

輸液などを組み立てた時に、組み立てて終わりではなく、その後患者がどうなったかを観察することはとても重要です。輸液を組み立てて投与した後、体重、筋力、社会参加、血糖値、窒素代謝産物、脱水などがどうなっているかをモニタリングして、そこを修正してまた新たに栄養管理を組み立てていくというプロセスを繰り返していくことになります。

 

まとめ

  • 健康だった場合の栄養量、水分量、アミノ酸量などを計算し、そこから病態に応じて増減、それに応じた輸液を組む

 

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輸液が必要な患者とは
薬剤師や新人や実習生の人は注射や輸液のことをあまりわかっていないです。輸液はなんらかの理由で経口不可の状態のために行い、不足している水や電解質、栄養を補充します。
輸液を投与する経路
輸液の投与経路は、末梢静脈、中心静脈があります。末梢静脈であれば第一選択として腕で、次に脚が選ばれることが多いです。中心静脈は、高カロリー輸液をいく場合などに選ばれます。
輸液で使われる器材を知る。
輸液ポンプ、シリンジポンプ、中心静脈カテーテル、フィルターなど様々な器材が、患者の病態や状況によって組み合わあされて薬液が投与されます。薬剤師でも最低限のことは知る必要があります。
輸液は何の目的でするのか
輸液は、生命を維持したり、不足しているものを補うために行います。生命を維持するには、維持液がよく使われます。不足しているものを補うには、末梢静脈栄養と中心静脈栄養があります。末梢静脈栄養は手技がやさしく、感染のリスクが少ないのがメリットです。しかし高いカロリーが投与できません。中心静脈栄養は高カロリーが投与できます。
ヒトの水分を学ぶ。脱水、溢水をメインに。
ヒトの60%は水分でできています。その60%のうち、20%が細胞外液で40%が細胞内液となっています。脱水は主に水分欠乏性脱水とナトリウム欠乏性脱水にわけられ、水分欠乏性脱水では5%ブドウ糖液が、ナトリウム欠乏性脱水では生理食塩水やリンゲル液が使われます。溢水はむくんでいる状態で、特に下腿にむくみがでてきます。
ナトリウムと水分の関係。
ナトリウムは135〜145mEq/Lが基準値となります。この基準からずれたときは、ナトリウムを考えるだけでなく、水分も考える必要があり、補正する場合も橋中心髄鞘崩壊症が起こる可能性があるため、急に補正をかけてはいけません。
カリウムは数値だけでなく、心電図も見よう。
カリウムは細胞内に多く存在し、神経や筋肉が働くのに必要な電解質です。基準値は3.5〜5mEq/Lで、基準値以外にも、心電図でモニタリングすることが重要です。
輸液製剤は5つの分類わけから始めよう
実習生や新人が輸液製剤を考える上では、カリウム、ナトリウム、糖の有無をまず考えます。そして輸液製剤は、電解質輸液、5%ブドウ糖液、高カロリー輸液、電解質補正液、血漿増量剤の5つの分類にわけられます。
輸液量は3つの要因で決まる。
輸液量は、3つの要因で成り立つ式で決まる。維持輸液量は生命を維持するのに必要な水分量で、水分のバランスである。補充輸液量は失った体液に近い組成のものを投与する。安全係数は2日〜3日かけて投与することを意味する。
輸液の速度と滴数の計算
輸液の量を決めたら、速度を決めます。速度は2のべき乗の法則をもとに、病態、年齢、体重をもとに医師から指示が入ります。次に、滴数を決めます。これには輸液セットが関わり、現在は20と60があります。
手術における輸液、サードスペースとは?
手術をする前には、禁飲食となるので、脱水を予防するために、術前や術中に輸液が必要となります。輸液する量は、術式や手術時間、出血量、サードスペースへの移行などをもとに決められます。
配合変化、薬剤師と看護師で協力する
配合変化は薬剤師と看護師で協力しあって防ぐことが重要となります。薬剤師側はデータや理論上の問題を、看護師は調製や実際の投与における問題をみることが重要となります。お互いが協力しあうことで配合変化を防げます。
酸・塩基。アシドーシス、アルカローシス。
血液のpHは7.35〜7.45に保たれています。アシデミアやアルカレミアはこの基準値からずれている状態です。これを主に調節しているのは、腎臓と肺です。アシドーシス、アルカローシスは傾向と捉えてもらえればよいです。
アシドーシス、アルカローシスを読み取る
読み取るには、まずアシデミアかアルカレミアを判断します。それをもとにアシドーシスなのかアルカローシスなのかを考えます。また代謝性なのか呼吸性なのかを考えましょう。逆の反応が代償性反応としておこります。
アシドーシス、アルカローシスの原因、症状、治療
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アニオンギャップ(AG)と代謝性アシドーシス
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静脈炎の原因と対策
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血管外漏出の原因と対策、抗がん剤とともに
血管外漏出は通常の点滴で起こり、特に抗がん剤で大きな問題となります。症状は炎症から始まり、時には壊死を起こす可能性もあります。血管外漏出の原因や対策を把握して、防ぐことが重要になります。
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頻脈や不整脈には、リスモダンP、キシロカイン、サンリズム、オノアクト、アンカロン、ワソラン、アデホス-Lコーワ、ジゴシンといった薬が使われます。これらは病態や適応(上室性か心室性か)、腎機能や肝機能によって使い分けられます。
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アレルギーやアナフィラキシーを起こした時の注射薬には、エピペン、サクシゾン、ポララミン、ネオフィリン、イノバンといった薬があります。これらの薬を医師がアレルギーやアナフィラキシーの状況に応じて使い分けていきます。
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抗がん剤を安全キャビネットに入れる前に消毒して入れましたが、調製の直前にも再度消毒が必要です。薬剤が漏れ出ないように、かつコアリングなどしないように適切に、バイアルや輸液バックに針刺しをすることが大事です。
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抗がん剤調製で、希釈をしたら、いよいよ払い出しです。払い出し直前に、間違っていないか最終確認して払い出ししましょう。後片付けはしっかり行わないと、自分だけでなく、次に使う人が被ばくしてしまいます。
経腸栄養と経静脈栄養の違い
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