経腸栄養と経静脈栄養の違い

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経腸栄養と経静脈栄養の違い

高齢者が入院中であれば看護師さんが身近な医療従事者かと思います。しかし、退院してから外来の状態になると、高齢者にとって身近な医療従事者は薬剤師になります。

 

 

高齢者が再入院しないようにするには、薬だけでなく栄養管理がとても重要となってきます。そのため、薬局薬剤師も栄養管理について知っておくべきです。今回は高齢者の栄養管理についてみていきたいと思います。

 

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高齢者の生体機能

高齢者は生体機能の大部分が低下しています。そして、その差は個人差がとても大きいです。栄養学的な観点から特に高齢者の生体機能の低下で重要なものとして

 

 

があげられます。サルコペニアとは加齢に伴う筋肉量の減少、フレイルは虚弱などを意味します。

 

 

加齢や疾患などでサルコペニアとなると、すぐに疲れて歩行速度などが遅くなります。

 

歩行速度が遅くなると、基礎代謝が落ち、活動量なども低下します。

 

基礎代謝や活動量が減ると、エネルギー消費量が落ち、食欲の低下や食事量が減ります。

 

食欲の低下や食事量が低下すると、体重が落ち、サルコペニアが加速するという負のスパイラルとなります。

 

この負のスパイラルは、加齢や疾患だけでなく、高齢者にありがちな、独居や認知機能の低下などからも入ってしまうことがあるので、注意が必要です。

 

そして、この図から適切な栄養管理がなされないとこの負のスパイラルは加速してしまうことがわかるかと思います。

 

では、どのように栄養管理すればよいのでしょうか?

 

栄養療法

栄養療法を行うには、まず患者ごとに最も適した栄養投与方法を決める必要があります。

 

栄養投与方法には主に以下の3つがあります。

 

  • 経口摂取;口からの摂取ができる場合
  • 経腸栄養;誤嚥のリスクなどがある場合、経口摂取では不十分な場合
  • 経静脈栄養;消化管が使えない場合

 

これらの中から患者に適したものを選びます。別に1つの投与方法にこだわる必要はなく、これらの投与方法を組み合わせて投与してもよいです。

 

経口摂取は皆さんなじみ深いので大丈夫かと思うので、経腸栄養と経静脈栄養の違いを見てみます。

 

製剤的な観点からの経腸栄養と経静脈栄養の違い

まず経腸栄養剤から見てみます。

 

経腸栄養剤
  • 栄養素が欠けることがほぼない
  • 栄養素のバランスが良いものが多い
  • NPC/N比もよく考えられている
  • 病態ごとに栄養素が調整されているものが多い

 

栄養素をまんべんなく含んでいることが多いので、経腸栄養剤はどの製品を選択してもしばらくの投与では問題が起こらないのが最大の特徴です。

 

ちなみにNPC/N比とはnon-protein calorie/nitrogenの略です。

 

  • non-protein calorie;投与されたアミノ酸以外の栄養素のエネルギー(要するに糖と脂質のエネルギー)
  • nitrogen;窒素(投与されたアミノ酸に含まれる窒素量)

 

代表的な疾患のNPC/N比は以下のようになります。

 

  • 健常人;150〜200
  • 保存期慢性腎臓病;300
  • 熱傷;100〜120
  • 膵炎;110〜150
  • COPD;150前後
  • 敗血症;100〜150

 

では話を戻しまして、先ほどのサルコペニアとフレイルの図で、筋肉量の減少を食い止めなければならないという話をしました。

 

筋肉(タンパク質)をアミノ酸から作るには、適切な量のエネルギーが必要です。もし適切な量のエネルギーがなければ、タンパク合成に回されずにエネルギーとしてアミノ酸は使われてしまいます。そのため、タンパク合成がうまく行われるように栄養管理をするための指標としてNPC/N比があります。

 

では、輸液製剤はどうでしょうか?

 

輸液製剤
  • 一剤ですべての栄養素を満たすものはほぼない(いずれかの栄養素が欠けている)
  • 一剤のNPC/N比には意味がない
  • アミノ酸製剤には病態別の製剤がある

 

いずれかの栄養素が欠けているので、複数の輸液を組み合わせて使うことが輸液製剤の基本となります。そのため1つの製剤のNPC/N比には意味がありません。これらのことからもわかるように経腸栄養剤と比べて輸液製剤は栄養学的な観点からみると劣っていることになります。

 

つまり輸液製剤を選択する場合、正しく使わなければ適切な栄養管理ができないことがわかります。

 

投与速度的な観点からの経腸栄養と経静脈栄養の違い

次は投与速度の観点からそれぞれ比べてみましょう。

 

経腸栄養

経腸栄養は薬のADMEと同じく消化、吸収などを経て全身に回ります(栄養素がゆっくりと体内に入る)

 

経腸栄養は、ゆっくりと体内に入っていくため投与速度をはやめてしまうと、嘔吐や下痢などの消化器症状が出てしまうことがあります。そのため以下のような投与速度の上限が目安となっています。

 

  • 胃瘻;200〜300mL/h以下
  • 腸瘻;100mL/以下

 

では、経静脈栄養はどうでしょうか?

 

経静脈栄養

経静脈栄養では直接血管に入るため速やかに全身に入ります。

 

先ほどの経腸栄養のような消化吸収などがなく速やかに全身に入るので、投与速度を調整しなければなりません。例えばぶどう糖液であれば早すぎると高血糖に、脂肪であれば早すぎると高脂血症となってしまいます。そのため以下のような投与速度の上限が目安となっています。

 

  • ブドウ糖;5mg/kg/min以下
  • 脂肪;0.1g/kg/h以下

 

これらのことから経腸栄養と経静脈栄養では投与速度を調節する理由が異なっていることがわかります。

 

まとめ

  • 高齢者のサルコペニアやフレイルを防ぐためには栄養管理が必要である。
  • 経腸栄養剤は輸液製剤と比べると栄養学的な観点から優れている。
  • 経腸栄養と経静脈栄養では投与速度を調整する理由が異なる

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輸液が必要な患者とは
薬剤師や新人や実習生の人は注射や輸液のことをあまりわかっていないです。輸液はなんらかの理由で経口不可の状態のために行い、不足している水や電解質、栄養を補充します。
輸液を投与する経路
輸液の投与経路は、末梢静脈、中心静脈があります。末梢静脈であれば第一選択として腕で、次に脚が選ばれることが多いです。中心静脈は、高カロリー輸液をいく場合などに選ばれます。
輸液で使われる器材を知る。
輸液ポンプ、シリンジポンプ、中心静脈カテーテル、フィルターなど様々な器材が、患者の病態や状況によって組み合わあされて薬液が投与されます。薬剤師でも最低限のことは知る必要があります。
輸液は何の目的でするのか
輸液は、生命を維持したり、不足しているものを補うために行います。生命を維持するには、維持液がよく使われます。不足しているものを補うには、末梢静脈栄養と中心静脈栄養があります。末梢静脈栄養は手技がやさしく、感染のリスクが少ないのがメリットです。しかし高いカロリーが投与できません。中心静脈栄養は高カロリーが投与できます。
ヒトの水分を学ぶ。脱水、溢水をメインに。
ヒトの60%は水分でできています。その60%のうち、20%が細胞外液で40%が細胞内液となっています。脱水は主に水分欠乏性脱水とナトリウム欠乏性脱水にわけられ、水分欠乏性脱水では5%ブドウ糖液が、ナトリウム欠乏性脱水では生理食塩水やリンゲル液が使われます。溢水はむくんでいる状態で、特に下腿にむくみがでてきます。
ナトリウムと水分の関係。
ナトリウムは135〜145mEq/Lが基準値となります。この基準からずれたときは、ナトリウムを考えるだけでなく、水分も考える必要があり、補正する場合も橋中心髄鞘崩壊症が起こる可能性があるため、急に補正をかけてはいけません。
カリウムは数値だけでなく、心電図も見よう。
カリウムは細胞内に多く存在し、神経や筋肉が働くのに必要な電解質です。基準値は3.5〜5mEq/Lで、基準値以外にも、心電図でモニタリングすることが重要です。
輸液製剤は5つの分類わけから始めよう
実習生や新人が輸液製剤を考える上では、カリウム、ナトリウム、糖の有無をまず考えます。そして輸液製剤は、電解質輸液、5%ブドウ糖液、高カロリー輸液、電解質補正液、血漿増量剤の5つの分類にわけられます。
輸液量は3つの要因で決まる。
輸液量は、3つの要因で成り立つ式で決まる。維持輸液量は生命を維持するのに必要な水分量で、水分のバランスである。補充輸液量は失った体液に近い組成のものを投与する。安全係数は2日〜3日かけて投与することを意味する。
病態別の経静脈栄養の考え方
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輸液の速度と滴数の計算
輸液の量を決めたら、速度を決めます。速度は2のべき乗の法則をもとに、病態、年齢、体重をもとに医師から指示が入ります。次に、滴数を決めます。これには輸液セットが関わり、現在は20と60があります。
手術における輸液、サードスペースとは?
手術をする前には、禁飲食となるので、脱水を予防するために、術前や術中に輸液が必要となります。輸液する量は、術式や手術時間、出血量、サードスペースへの移行などをもとに決められます。
配合変化、薬剤師と看護師で協力する
配合変化は薬剤師と看護師で協力しあって防ぐことが重要となります。薬剤師側はデータや理論上の問題を、看護師は調製や実際の投与における問題をみることが重要となります。お互いが協力しあうことで配合変化を防げます。
酸・塩基。アシドーシス、アルカローシス。
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